競走馬のセカンドキャリアを考える

競走馬は年間約1万頭近くが生産され、約1万頭近くが殺処分をされているというデータがあります。

ただ、殺処分という事は少々過激で、正確には人間やペットの食用肉として転用されます。

この流れに歯止めをかけようと、様々な人たちが様々な活動をしていますが、少々違和感を感じることも少なくありません。

私も競走馬の世界に身を置いていた者として、少しでも競走馬のセカンドキャリアの選択肢が広がればいいと思っています。

その競走馬のセカンドキャリアについて、多くは賛成ですが、一つだけ異を唱えます。

それは「ホースセラピー」と「子どもの乗馬」に競走馬のセカンドキャリアを選択することです。

それについては、はっきりと反対をします。

ホースセラピーとは?

ホースセラピーという言葉を耳にしたことはないでしょうか?

ホースセラピーという言葉にはには大きく二つの使われ方があります。

① 心身に障がいのある人への治療の一環として、馬を活用すること。

② 心身の障がいに関わらず、馬とのふれあいや乗馬などを通して、癒し効果を提供すること。

主にこの二つがホースセラピーの定義として使われます。

はっきり言って、すごく定義の広い使われ方をしていて、使い方や捉え方が人それぞれだという事です。

 

子どもの乗馬に必要なこととは?

私が考える、子どもが乗馬を行う際に最低限必要なことは、

① 子どもが安全に乗馬を行うことのできる、安全性の高い馬。

② 子どもと馬の特性の双方を熟知し、指導できるインストラクター。

③ 子どもも馬も安心で安全な環境と設備。

この3点です。

 

競走馬はどんな馬か?

競走馬に使われる品種はサラブレットという品種で、皆さんもよく耳にするのではないでしょうか?

競走馬の事をサラブレットという意味だと思っている方も多くいますが、正確には馬の品種の一つです。

サラブレットは速く走ることを目的に品種改良された、レース専用の馬です。

車で言えばF-1マシーンのようなものです。

体つきは細身で、無駄な肉はそぎ落とされ、筋肉で覆われています。

大きさは体高が160センチ前後(馬の体高は馬の首の付け根の高さで測ります!)と足が長い。

性格は比較的激しく、闘争心に溢れています。

 

「ホースセラピー」と「子ども乗馬」という言葉の魔法

ホースセラピーや子ども乗馬に競走馬を転用する。

そんな言葉を聞くと、競走馬のセカンドキャリアとしては最高のように聞こえます。

レースでダメだった子が、人の力になるために新たな馬生を過ごす。

人にとっても馬にとってもこれ以上の選択肢はないような言葉です。

しかし、そこに私は異を唱えたいと思います。

 

ホースセラピーと子ども乗馬に求められる馬

ホースセラピーを障がいのある方にも行う場合、理想とされる馬は、

① 乗せ降ろしのしやすい大きさで、体の幅のある安定感のある馬。

② 歩くペースがある程度一定で、揺れが大きすぎない馬。

③ 性格が温厚で、扱いやすい安全性の高い馬。

子どもの乗馬に求められる馬は

① 子どもでも乗り降りが可能な大きさで、万が一の落馬でもダメージを最小限に抑えられる馬。

② 子どもの小さな指示でも受け入れる、操作性の高い馬。

③ 性格が温厚で、安全性の高い馬。

これらが求められます。

ホースセラピーと子どもの乗馬に共通して必要な馬は

大きさが適正で、性格が温厚。そして何より、安全性の高い馬が求められます。

これは最低条件で、これを満たしていない馬はホースセラピーと子ども乗馬には不適合と言えます。

 

馬に関わる人間のエゴとおごり

かなり強い言葉になりますが、自戒を込めて言いたいと思います。

馬に関わる側の人間はつい、馬を軸に物事を考えがちです。

それがいかに愚かで、傲慢であるかを我々、馬業界の人間は常に気をつけなければなりません。

競走馬の命を少しでも助けたい。第二の馬生の選択肢を増やしてあげたい。

分かります。痛いほどわかります。

僕もたくさんの馬の最後に立ち会いました。たくさんの理不尽な別れを経験しました。

だからこそ敢えて、批判覚悟で言わせていただきたいと思います。

競走馬のセカンドキャリアにホースセラピーと子ども乗馬を選ぶこと。はっきり言って、何の生産性のない、馬全体の未来そのものを否定する、馬側に立つ人間のエゴ、傲慢です。

 

馬側から考えるのではなく、求める側のニーズを考える。

例えば遊園地に遊びに行って、子どもでも乗れるF-1マシーンがあったとします。

保護者の思いは子どもに貴重な体験をさせるために、乗せようとするでしょう。

でもそこにはこんな注意書きがあります。

「このF-1マシーンはうっかりアクセルを踏むと急加速する場合があります。お子様には十分注意をしてお乗せ下さい。」

この注意書きを見て、F-1マシーンに乗せる保護者は、なかなかの猛者ですが、大半の保護者は乗せることはないでしょう。

保護者が求めるのはまずはわが子の安全が保障されていること。その上で、貴重な体験をしてほしいこと。

これが求める側の最低限の条件です。

これをホースセラピーや子ども乗馬に置き換えれば、レース専用に生産調教されたサラブレットに簡単なチューニングを施して、お客様にて提供していることと同義です。

これを見た馬の技術屋さんは恐らく、「それは調教技術が低いからだよ」と嘲笑するでしょう。

そこに、馬側の人間の傲慢さが凝縮されています。

サラブレットはどうあってもサラブレット。レース専用のF-1マシーンなのです。

そこに馬の個の適性などという、甘えを入れてはいけません。

私たち提供する側が考えるべきは、常に求める側のニーズに応えること。それだけです。

至極当然の発想です。

 

より安全な馬をより安全に

安全性を高めすぎることにやる過ぎなんてことは絶対にありません。

安全性は高ければ高いほど良いに決まっています。

「生き物相手なんで、絶対はありません。」

そんなことをお客様に突き付けている時点で、論外です。

もちろん、馬という生き物の特性を正しくお客様に伝え、お客様に適正な扱い方、接し方を伝えることは必須です。

私たち提供する側がやるべき最低限のことはお客様の安全性を最大限確保すること。

特に相手が障がいのある方、子どもであれば尚更です。

なので、わざわざレース専用であるサラブレットを子ども向けにチューニングするより、乗馬用に生産されている元来温厚で安全性の高い、ポニーや中間種を子ども専用にトレーニングすること。

これがホースセラピーや子ども乗馬を普及させるためには最低限のやるべきことだと考えます。

 

競走馬のセカンドキャリアをすべて否定しない

私はすべての競走馬のセカンドキャリアを否定しているわけではありません。

乗馬の技術向上や、大人のレッスンに使うことは、時にサラブレットの特性は有用な場合があります。

そこにフォーカスしてサラブレットを活用することには賛成ですし、私自身もサラブレットから学んだことが大いに今の仕事に生きています。

サラブレットの美しさ、そして中にはやさしい子もいるので、そこに活路を見出すのは大いに賛成です。

ただ、そこだけでは活用が限られる。という話も分かりますが、無理に適正外のことに活用するのは返って幅を狭めてしまうので、注意が必要だと思います。

 

最後に

サラブレットの現状を見て、何とか救いたいという気持ち。

それは痛いほどよく分かりますし、私も常に心の中にあります。

ただ、その感情に支配され、視野が狭まり、本質を見失ってはいけないという事です。

私たちが考えるべきはもっと大きな視野で馬の生きる道を広げること。

ホースセラピーや子ども乗馬はこれからの時代にますます求められる分野です。

そこに安易にリスクのあるサラブレットの活路を見出そうとせず、「馬」というカテゴリーで、もっと世間の認知を広め、実績を積み上げていくことが一番の近道です。

適材適所の馬を活用し、ホースセラピーと子ども乗馬が市民権を得る。

世の中に「馬」のファンが増えれば、たくさんの知恵と支援が集まり、サラブレットの生きる環境はさらに良くなるはずです。

僕はそれがサラブレットのセカンドキャリアを築くための一番の近道だと信じています。

かわいそう。という一時的な感情に振られず、全体をしっかりと俯瞰して、将来をしっかり見据える。

自己満足な行動ではなく、結果につながる行動を心掛ける。

私ができる、競走馬のセカンドキャリアへのアプローチはそこだけです。

人と馬の双方にとって、幸せで明るい将来を作ること。

そのために、本物を提供し続けること。

そこを妥協しないためにも、私は安全で安心な馬と、子どもと馬の関係の有益性を提供し、発信し続けます。

 

 

 

 

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